多様な加工法とジュエリー業界での活用

ものづくりには様々な加工法があり、求められる条件によって使い分けられます。デザイン・加工速度・加工精度・生産量・使用目的などにより選択肢も決っていき、代表的な加工法をまとめると下記のようになります。

  • 切削加工
  • 鋳造加工
  • プレス加工
  • 3Dプリント加工
  • 手加工

それぞれの特徴を見ていきたいと思います。

切削加工

塊から目的の形状に削り出す方法

デザイン加工速度加工精度量産向き試作向き

材料は金属や樹脂などの塊で、先端に取り付けられた切削工具により一つずつ削り出す方法のため、試作品の製作には向いていますが、量産には向かないです。また、先端の工具が届かない部分は加工が出来ないためデザインには制限がありますが、5軸加工機などであれば加工時間を掛ければある程度まで対応できます。切削機械の運用にはスキルが必要となりますが、CAMの設定次第で加工精度や加工速度を調整できます。エンドミルなどの刃物による切削だけでなく、砥石で削りとる研削や、レーザーなどの熱で材料を融解させる加工もあります。

鋳造加工

型に材料を流し込む方法

デザイン加工速度加工精度量産向き試作向き

砂などで作った型に溶けた金属を流し込むといった、銅鐸や仏像などで馴染みのあるとても歴史の長い加工方法です。金属の鋳造は石膏などに原型を埋没させて、焼成後の空間を型として使います。原型を複製して鋳造すれば量産することが出来るので大量生産にも向いてます。プラスチック製品など射出成形する場合は金型を使い短時間で大量に加工できますが、金型にコストがかかるため小ロットには向きません。

プレス加工

型を使って変形させる方法

デザイン加工速度加工精度量産向き試作向き
×

型を使って金属板をプレスするなどして負荷をかけ続けることで永久的な変形を起こします。量産向きで、圧力をかけてプレスされるので製品の強度も高まります。車のボディーなどで用いられる工法です。金型に非常にコストが掛かるため、大体は試作を経た製造段階に使われます。

3Dプリント加工

材料を積層させていく方法

デザイン加工速度加工精度量産向き試作向き

先端ノズルから噴射された材料を積層していくことで成形します。成形できるデザインに制限が少ないので従来の加工法では実現できなかった形状が可能となります。また3Dプリンターの操作は比較的容易なものが多く、専門的なスキルが無くても運用できます。小型ものであれば卓上に収まりますし、低価格帯の3Dプリンターの登場で個人でも手の届くようになりました。様々な業種において試作品段階での形状確認が外部委託に頼らず気軽にできます。造形領域内に収まれば複数モデルを同時に出力することが可能です。一方で3Dデータを作成するためには3DCAD・3DCGソフトを扱える人材が必要で、スキルが伴わなければデータ作成・修正することも出来ません。

手加工

手作業による加工

デザイン加工速度加工精度量産向き試作向き
××

そもそも機械加工と比較するのもナンセンスかもしれません。個人差が非常に大きく、中には神業と呼べるものもあります。加工精度よりも求めるもので異なり、手仕事ならではの温かみのように、手加工自体に付加価値が付く場合もありますし、精密機械を上回る技を持つ職人さんもいます。手作業である以上は加工速度・大量生産性は機械に敵いませんが、これからも機械が幅を利かせる製造現場のどこかでは必要な加工法として有り続けると思います。

ジュエリー製作における加工法

ジュエリー製作でも様々な加工法が使われます。伝統的な手加工のみで完結するような工房を除いて、ワックス樹脂による鋳造加工はほぼ欠かせないものとなっています。鋳造には原型をそのまま直接鋳造する場合と、原型をゴム・シリコン樹脂などで型取りして複製したものを用いる場合とがあります。鋳造用の原型製作は手加工・切削加工・3Dプリント加工のいずれかで行われていますが、機械を使う切削加工・3Dプリント加工では、機械によって扱える材料も違ってきますので、少しまとめてみます。

切削加工

切削に使われる材料は主に2種類でワックス樹脂・金属となります。

ワックス樹脂
  • 鋳造用の原型として使える
  • 液ゴム型取りすれば量産が可能
  • 材料が安価で切削後も再利用もしやすい

金属
  • そのまま仕上げて最終製品として使える
  • 型取りすれば鋳造用の原型として利用可能
  • 鋳造品よりも硬度・密度が良い仕上がり
  • 材料が高価で切削によりロスが生じる

ワックス樹脂

ワックス樹脂は手加工で使われるものがそのまま流用可能なので低コストで運用でき、鋳造の結果も良好です。切削後は機械に固定する為のサポート部品を取り除き、必要に応じて手作業で仕上げや修正などを加えて、通常のワックス樹脂と同様に鋳造や型取りの過程へと続けます。切削後に出る切り粉の再利用は、液状になるまで加熱したワックスを型に流して固めるだけなので個人でも容易にできます。

金属

金属はそのまま最終製品として仕上げるのであれば金・銀・プラチナとなり、材料代としてはかなり高価なものになります。貴金属となれば切削後に出る切り粉は専門業者で分析処理して成形する必要があるのでコストも膨らみます。しかしながら、鍛造同様の材料を削り出すことで高硬度・高密度の質の高い最終製品が得られますので、鋳造品との差別化が計れます。

どちらの材料においても、手加工に用いられる材料がそのまま使えることで、切削加工後の仕上げ・修正が容易となります。手加工と切削加工を部分部分で組み合わせるような使い方も可能です。また、切削機が多軸加工機で5軸対応にもなればデザインの自由度も広がりますし、仕上がりも綺麗になります。

一方で、運用するためにはCAMという機械をオペレートする技術を習得する必要があり、仕上がりや加工時間にも差ができます。エンドミルと呼ばれる先端工具を工程によっては取り付け替える必要がありますし、慣れないうちはエンドミルを折るばかりでなく、場合によっては機械自体を破損させる危険もありますので、切削機の動作中は注視する必要があります。

3Dプリント加工

3Dプリントに使われる材料は主に3種類でワックス樹脂・光硬化樹脂・金属粉末となります。

ワックス樹脂
  • 鋳造用の原型として使われる
  • 壊れやすいので取り扱いに注意
  • ある程度の量産が出来る
  • 高価格帯の3Dプリンタ

光硬化樹脂
  • 鋳造用に型取りして使われる
  • 貴金属によっては直接鋳造が可能
  • 低価格帯の3Dプリンタ
金属粉末
  • そのまま仕上げて最終製品として使える
  • 材料が高価だがロスは少ない
  • 国内に3Dプリンタ販売代理店はない

ワックス樹脂

ワックス樹脂は各社3Dプリンター専用のものとなり、手加工で使われるものとは別物です。壊れやすく融点も低いので造形後の取り扱いには注意が必要です。プリント後はサポート材を溶解させて取り除きますので、手間は思うほど掛かりません。手作業での仕上げや修正などは難しいので、基本的にはそのまま鋳造や型取りの過程へと続けます。鋳造の結果は良好ですが、積層と呼ばれる段差が出来るので鋳造後は研磨する必要があります。高価格帯のワックス用3Dプリンターになると量産が可能の機種もありますが、個人で所有するのは難しいので、一般的には外注業者に出力依頼することになります。

光硬化樹脂

光造形に使われる樹脂は各社専用のものもありますが社外品を流用する場合もあります。プリント後は造形物の洗浄二次硬化をしてから、サポート材を手作業で切り離して取り除くので手間は掛かります。完全硬化後は十分に固くなるので工具で手加工・修正ができ、その後、型取りの過程へと続けます。仕上がりは比較的綺麗で滑らかな表面ですが、積層が出やすい機種もあります。光硬化樹脂には直接鋳造が出来るタイプも開発されていますがワックス樹脂での鋳造には及ばす、特にプラチナの鋳造には課題があります。光造形関連の特許期限終了で参入企業が増えたこともあって、比較的低価格でも導入できる機種が増えており、個人レベルでも手が届くようになりました。

金属粉末

金属の3Dプリントは粉末焼結法と呼ばれる方式で行われ、3Dプリント加工の中では新しい技術となります。粉末状にした金属にレーザーを照射して溶解させて形にしていくやり方で、貴金属だと大手貴金属メーカーが白金族金属粉末材料など開発・提供に乗り出しています。出力される造形物自体が最終製品として使えるので鋳造の必要もなくなりますし、手作業での仕上げや修正なども可能です。もちろん型取りすることも出来ます。貴金属対応機種の日本国内での導入事例を確認していないので詳しく分からない部分もありますが、ジュエリー業界にはとても向いた3Dプリンターと思えます。今までは鋳造用の原型製作を前提で使われていた3Dプリント加工ですが、最終製品そのものが出来上がるなら手間が掛からなく、納期の短縮にも繋がります。導入コストが安く抑えれて広く使えれるようになれば、従来の工程を大きく変えてしまう可能性があると思えます。

いずれの材料においても、それぞれの3Dプリント専用の材料を使うことになります。造形後もそのまま鋳造に使えるワックス樹脂、型取りをする必要がある光硬化樹脂、そもそも鋳造が必要のない金属粉末、と様々です。造形速度は切削加工機に比べて早く、造形領域内に複数のモデルデータが収まるように配置できれば多数の造形出力ができ、量産も可能です。また外部発注を依頼できる業者も比較的多いので3Dプリンターを所持しなくても3Dデータが用意できれば運用可能です。

注意すべきはモデルデータです。立体物を削り出す切削機の場合は、サーフェスのデータでも構いません。しかし、3Dプリントの場合はソリッド・閉じたポリサーフェスにしなければなりません。穴が空いている・隙間がある・面が反転している・自己交差している、などの状態はデータを修正する必要が出てきます。サポートの位置も造形結果を考慮して配置しなければならなく、切削機と同様にノウハウが必要となります。ただし切削機とは違い、造形開始後は完成するまで人が関わる場面は少ないので、別の作業に費やせます。


切削加工にせよ3Dプリンタ加工にせよ、現状では鋳造することを前提としての運用が現実的です。

事業所の規模にも依りますが、少数なら光硬化樹脂が扱える光造形プリンター、もしくはワックス樹脂用の切削機で十分だと思います。量産を考えると高価格帯になりますが、ワックス樹脂プリンターとなるでしょう。今は3Dプリントサービスも充実していますので、機械を持たずに外部発注するのも選択肢としてありえますし、サポート除去や保守・メンテナンスの手間が省けるのはメリットでもあります。

これからの展望と期待ではありますが、理想は貴金属プリント技術と切削技術の複合による粉末焼結切削加工による手の届く価格帯の新機種、もしくはサービスの登場です。

粉末焼結切削加工とは粉末焼結法で貴金属プリントされたものを切削加工で綺麗に仕上げる加工方法で、3Dプリント加工と切削加工の良いとこ取りした材料のロスも少なく綺麗に仕上がる理想的なものです。

3Dプリントは登場当初、ラピッドプロトタイピングと言われていたように試作の段階において有効活用が出来るものとして様々な業種で広がりましたが、ジュエリー業界では早い段階で製造工程での活用が始まりました。

私自身も手加工の職人でしたが、CADを導入して、CAMを覚えて、切削機による原型製作に取り組みました。手作業では不可能な加工が可能となることに自信を持ちつつも、自分のCADオペレート技術の未熟さを痛感することも多々ありました。

機械加工を活かすには、まずは3Dモデリングが出来なければなりません。

今回は少し機械加工関係の話をしましたが、3Dデータを作る技術があれば加工現場での活用のみならず、ここ近年ではWeb技術・VR・ARなど急速に普及した分野での新しい活用が見込めます。